職場で求められる「相談する力」は、相手に答えを求めることではなく、自分の考えを整理し、意思決定のヒントを得るための力です。生成AIが身近な相談相手となった今だからこそ、世代間コミュニケーションと、AIを意思決定の「参考」として活用する姿勢が重要になります。

今年の5月に、ChatGPTに対応を相談したことがきっかけで、結果的には相談した本人も望まない顛末になった出来事がありました。AIの向き合い方を考えさせられる一件にもなったと言えます。
身近な人には相談しにくいことも、AI(→対話型の生成AIサービス)には気軽に相談できるという風潮が若年層を中心に広がっているという調査結果もありますが、AIから常に正しい最適なアドバイスを得られるわけではないことを知っておく必要があります。
職場においても、世代間にある仕事観やコミュニケーションのギャップを埋めるのは容易なことではありません。世代間ギャップを埋めながら双方が理解して仕事を進めるための心がけと、上記の一件のような、相談者の思惑違いを起こさないAI活用の仕方も併せて考えたいと思います。
まずは、令和7年 後期3級 問題2(3) を見ていきましょう。
問題2.次の各問に答えよ。
(3)上司からの指示と報告・相談の仕方に関する記述として、もっとも適切なものを選択肢から選べ。
【選択肢】
正解:ア (正答率 86.2%)
正解肢を選ぶのは比較的易しい問題ですが、ここでは ウ の選択肢に着目します。
上司に相談する場合、相談を受ける側が何をどう回答すればいいか迷わない質問の仕方をする必要があります。3級テキスト(p.53)にも書かれているとおり、相談はあくまでも「ヒント」をもらうことが目的ですので、この選択肢の「自分の考えはできるだけ持たないようにして」は、相談者の姿勢として不適切です。「私は***したいと思いますが」「私は***と考えますが」など、自分の提案や意思を示したうえで、意思決定のためのアドバイスやヒントをもらう姿勢が大切で、それがキャリアアップにもつながると言えます。
「上司世代」と「若手世代」のギャップは、情報収集の習慣の違いが大きいと言えるかもしれません。昭和生まれの「上司世代」は、インターネットが普及するまではマスコミ四媒体(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌)を中心に、書籍などの印刷物から時間をかけて情報収集することが一般的でしたが、得た情報を駆使して仕事に応用する力を着実に身につけてきた人が多いのも確かです。
いわゆる「Z世代」を中心とした若手世代は、生まれた時からインターネットやSNSの存在が日常生活に浸透しており、パソコンやスマホから手軽に短時間で情報収集することが習慣になっています。その反面、新聞を購読する人は極端に少なくなって、LINEやX(エックス)などの文章量が「読むこと」の平均になり、長い文章を読む習慣がある人は決して多くありません。「時間を無駄にしたくない」という意識から、すぐに結論を得たいと考える人が多いという調査結果もあります。YouTube動画を倍速で視聴するなどの傾向は、その表れとも言えそうです。
職場での世代間ギャップを埋める基本は、ひとえに双方が歩み寄る意識を持って行動することです。参考までに、相談をする(受ける)場合の意識の持ち方を例示します。
【若手世代の意識】
【上司世代の意識】
学生にとっても、今後さまざまな場面でのAI活用が日常的になることは間違いありませんが、安易な気持ちでAIに頼っていると、「まず自分で考えてみる」習慣がなくなり、思考力が育たないという指摘もされています。たとえば問題集に取り組むとき、自分には難問だからと、いきなり解答・解説を読んで理解した気になってしまうようなもので、身につく学習にはなりません。
AIを活用する場合の注意点の一つは、AIは人間と同様、常に正しいわけではなく、しばしば間違った意見や極端なアドバイスをすることもあり、最終的には人による事実確認(ファクトチェック)が必要になります。
また、AIはデータ分析には優れていますが、人が持っている「五感」や「感性」がないため、人と向き合って共感したり、他者の気持ちや行動を理解したりする能力はないと言えます。データに基づいて理路整然と説得材料を並べるだけでは、人の感情まで納得させるのは困難なことを、私たちの多くは経験し、学習しているはずですね。
学校の授業でも、科目によっては学生にスマホを使って検索するように指示する教員もいます。辞書検索やニュース検索などで利用するのは便利ですが、無制限に多用する習慣につながらないよう留意すべきと考えます。たとえば正解が一つではないテーマについては、いろいろな立ち位置で考えたり、仮説を立てて検証したり、というプロセスこそが大切です。AIを利用する場合も、問いかけて得た回答を鵜吞みにするのではなく、吟味する習慣を身につけ、時には疑ったり、批判的に捉えたりすることも、有意義なAIの活用と言えます。
職場でのコミュニケーションでAIを有効に活用するためには、過去の事例やデータ分析を共有するなど、あくまでも意思決定の参考にするという域を超えないことだと考えます。入力するプロンプト(質問や指示文)の内容や条件、ニュアンスの変化によって生成AIの回答も変化します。意思決定のヒントを探るためのAI活用は有効ですが、共感を得るとか他者の気持ちを理解するためには、人間の「五感」や「感性」を活用する姿勢が今後も欠かせないと言えそうですね。