「コスト意識」というと、まず「無駄をなくす」「支出を減らす」といったイメージが浮かびます。しかし、ビジネスの現場では、単にコストを削ればよいわけではありません。今回は身近な事例を通して、価値や信頼との関係から「コスト意識」を考えます。
昨今の物価上昇で、個人や世帯の収入はなかなか増えないのに、支出は増える一方という現実に直面している人は多いかもしれません。支出を抑える“節約”に努めるにしても、家賃(住宅ローンを含む)や交通費、教育費(授業料等)など金額の大きな固定費用は節約の対象になりにくく、食費や水道光熱費、遊興費などを切り詰めるのにも限度がありますね。

事業活動に置き換えると、収益が上がらないときに「コスト削減」を掲げて支出を減らし、利益確保を図ろうとしますが、あらゆるコストを一方的に減らせば良いわけではありません。業務を見直してムダをなくすことは大切ですが、コスト削減ありきで遂行すると、商品・サービスの品質レベルや顧客満足度にマイナスの影響を及ぼすことがあるため、注意が必要です。
「コスト」は、直接発生する金銭的な費用だけを指すわけではありません、活動に費やす時間や労働力をも含めて認識することが大切です。ムダな作業や人員を削減し、非効率な業務を改善することでもコスト削減の効果は上がります。
今回は、令和5年度前期3級 問題2(1)を見ていきましょう。
問題2
【選択肢】
正解:イ
選択肢のウは、まさに“コスト削減ありき”の考え方のため、品質意識、顧客意識の観点からも理にかなっていないと言えます。
「コスト意識」とは、コストをなるべくかけないことが前提なのではなく、ムダなコストは削減しても必要なコストは削減せず、コストに見合う価値を生み出そうとする意識を指します。(3級テキストp.31参照)
かつて、ハンバーガーチェーン同士で激しい価格競争がありました。業界大手A社の販売価格に対抗し、B社がそれより安い価格を打ち出したため、コスト削減を進める値下げ合戦になったのです。しかし、売上が伸びず利益を圧迫するようになったため、低価格戦略を見直して元の価格帯に戻したときには、「安かろう、悪かろう」というマイナスのイメージが消費者の意識に定着していたため、「値上がりした」というネガティブな反応で客離れが起き、売上の低迷に拍車がかかりました。
→材料が外国からの輸入品の場合、為替レートに左右されやすく、円安のときは高コストになるため、ガソリン価格などの輸送コストも含めると大幅な値上げが避けられなくなります。
「コストパフォーマンス(費用対効果)がいい」というのは、「価格が安い」という前提で考えがちですが、本来は価格以上の品質や満足感があるということです。品質や独自の価値(ex.味、ボリューム、店の雰囲気)での明確な差別化が重要なのですが、品質や顧客満足度を高める商品・サービスを提供するのであれば、高コスト・高価格になるのはむしろ当然のこととも言えます。
たとえば、高級ブランド品や貴金属品が市場価格より極端に安い価格で販売されていると、消費者は本物かどうか疑念を抱くため、かえって売れなくなるということもあるのです。
コスト削減を理由に、優位的な立場を利用して仕入先や下請業者に対し不当に値下げ要求をすると違法行為になりますが、値引き交渉などは一切せず、常に仕入先の提示する適正価格で取引している会社が、長野県の伊那食品工業株式会社(寒天商品の製造・販売業)です。
この会社は地域や取引先を大切にしていて、安い仕入先を探し回るようなことはしていません。仮に仕入先が値引き交渉に応じてくれたとしても不満を抱くようになるのは明らかで、その仕入先もまた自分たちの仕入先に無理を言うことになるという、負の連鎖を断ち切りたい思いがあったわけです。自分たちだけコスト削減できる好条件で取引して信頼関係を損なうより、双方が繁栄し、満足感や幸福感を共有できる関係を築くのが「いい会社」という考え方も功を奏し、創業以来50期連続で増収、増益を達成するという快挙を成し遂げています。
*参考:塚越 寛
「リストラなしの『年輪経営』」(光文社 2009年)
「新訂 いい会社をつくりましょう」(文屋2012年)
適切な「コスト意識」とは、必要か不必要か、減らすべきか維持または増やすべきかを、ケースバイケースで見極める力を磨くことであるとも解釈できます。
「ムダ」をなくすための業務の見直しを日常的に行い、気づいたときにすぐ改善を図る習慣を、従業員全員で共有することが重要と言えます。たとえばムダな印刷を削減する意識を持てば、「ペーパーレス化」が進み、「デジタルツール活用」の加速にもつながります。「オンライン会議」が定着すれば、離れたオフィス間の移動時間や、資料印刷と配付のムダが減り、特に若手世代が重視するタイムパフォーマンスの良い働き方が可能になります。
職場の方針として「〇〇費を節約」や「コスト〇%削減目標」という指示を掲げるだけでは、特に若い従業員にとっては「押し付け」にしか受け取られません。コスト削減の先に、従業員のメリットになるものがあるのかがわからない無限努力では、モチベーションが下がるばかりです。コスト削減の先に何があるのか、ムダをなくすこと以外の節約は何のためにするのかを、指導者(管理職)がきちんと伝えなければ、「コスト意識」を適切に浸透させることは困難と言えるでしょう。
指示に納得した上で仲間と共に考え努力し、達成感や幸福感を共有できることが重要で、その積み重ねが個人の成長実感にもつながり、組織にとってもプラスになることは間違いありません。