「仕事の基本となる8つの意識」は、担当者だけでなく、人を指導する立場になっても変わらない行動の軸です。今回はケース問題を通して、「納期意識」を中心に、仕事を任せることとリーダーの責任について考えてみましょう。
入社して3年程度のキャリアを積むと、自分自身の業務に加えて後輩や新人、業種によってはアルバイトの教育指導などを担う立場になります。上司も部下も居る、いわゆる中間管理職であり、チームリーダー的な役割を期待されるため責任も少し重くなるわけです。それでも、仕事に向き合う際の基本である「8つの意識」については変わりません。

前回に引き続き、令和5年度後期 2級試験のケース問題を見てみましょう。
問題6
細木彰は、新車を販売する「ワールド自動車販売」に入社し、3年目になる社員である。ワールド自動車販売は、ある県の西部地域に5つの店舗と整備修理工場を持ち、近隣のお客さまを中心に車を販売し、車検や定期点検、車の不調時には迅速に整備・修理を行っており、評判が良い。細木はA店に勤務し、主な業務は車の購入や点検整備・修理のために来店したお客さまの接客と、販売促進のイベント企画である。イベント企画は上司であるA店店長の和田から指示を受け、後輩で入社1年目の大山を指導しながら進めている。(中略)
しばらく商談をしているとお客さまは気に入った車がみつかり、成約となった。
細木は塚原さまの接客を終えると、引き続き、立ち寄ったお客さまの接客と、通りかかった人に声をかけてアンケート調査を続け、展示会は終了した。
その後、細木は大山を呼んだ。
数日後、細木は塚原さまから電話を受けた。
細木は事務手続きなどを任せた大山に間に合うか確認した。大山は販売システムの画面を開き、進捗状況を確認した。
細木は塚原さまに要望通りに納車を2日前倒しできることを電話で連絡した。
塚原さまの納車の前日になり、細木は整備状況の確認のため、整備工場の作業日程計画担当者に連絡したところ、次のような回答であった。
担当者「塚原さまのお車は明後日に整備する予定で、作業員を割り振っています。明日、納車とは聞いていません。手配したオプション部品は準備できていますが。」
細木は大山に確認すると、整備工場への連絡を忘れていたとのことだった。
(4)このときの細木の大山への対応に関する記述の正誤の組み合わせとして、適切なものを選択肢から選べ。
(選択肢①②省略)
③塚原さまに、納車の前倒しを後輩が整備工場に連絡し忘れたため、点検整備が間に合わず、明日の納車は無理であることを正直にお伝えして、明日の納車を諦めていただき、改めて納車の日程を調整する。
③の対応を正しいと判断した解答者が全体の51%いるのですが、正しいと判断する根拠となったキーワードを推察すると、「連絡し忘れた」ために「明日の納車は無理」ということを「正直に」伝えることで許してもらうという姿勢、すなわち嘘を言ったり隠したりしないことが大事だから、ということなのかもしれません。昨今の不祥事で企業の経営陣が会見を開き、頭を下げる映像が目に焼き付いているとしたら、それも困りものです。
この問題は「納期意識」が問われているケースです。いわゆるヒューマン・エラーを100%防ぐことは不可能ですが、あくまでも③の対応は最終手段であり、その前に何とか間に合わせる手段はないかギリギリまで、会社として考えて対応することが優先されなくてはなりません。会社の事情や誰のミスであるかはお客さまには一切関係なく、一旦確認したうえで会社としてお客さまに納車日を約束したわけですから、簡単に撤回してお詫びの言葉で片付けるようでは信頼を失うことになります。
また、今回のケースでは、他部署の業務に関連する変更事項でありながら、大山が担当部署への連絡や相談を省き、確認を怠ったまま思い込みで細木に返事したことが重大な問題ですが、整備工場の予定を誰も確認せず大山の回答からそのままお客さまに連絡した細木にも問題があると言えます。
リーダーが部下を指導するときに、「仕事を任せる」ことで育てるという言い方をする場合がありますが、それは「丸投げ」をすることではありません。チームやプロジェクトのリーダーであれば結果の責任を負うのはもちろんですが、結果に至るまでの経過(プロセス)にこそ大きな役割があると言っても過言ではありません。とくにお客さまや取引先など社外の人間が関連するケースでの変更などは、二重に確認するくらいのチェック体制が必要です。
「仕事を任せる」という観点で捉えると、「エンパワーメント(empowerment)」=「権限委譲」という言葉があり、ザ・リッツ・カールトン(ホテル)、星野リゾート、スターバックスなどでの実践例が、ウェブサイトや関連書籍で多く紹介されています。ザ・リッツ・カールトンの例を一つ紹介すると、スタッフがその場ではお客さまにとって一番良いサービスだと思えたら上司の判断を仰がずに実行してもよく、一日20万円までの決裁権も与えられているというものです。つまり、現場では重要度や緊急度が高いと判断できても、決裁権がある上司に相談して許可を得ることができない状況だと間に合わないケースがあり、お客さまの役に立てる機会を損失してしまうのを防ぐという発想です。元日本支社長の高野登氏の話では、実際に20万円の決裁権があっても、それを行使することはほぼないそうですが、お客さまに向き合う際の精神的な安心要因になり、当事者意識や責任感を持って思い切った接客やおもてなしができるのですね。
学校の授業においては、ビジネス現場の緊張感を出しながらのロールプレイによる指導は難しいですが、多くの学生は接客サービス関連のアルバイトをしています。アルバイト中に起きた事例をグループワークで共有し、「8つの意識」に沿ったリアルな事例を発表することで全体学習につなげると、効果的なゼミナール形式の授業になります。私の経験では、グループワークの時間でかなり活発な意見交換が見られました。会社の集合研修でも同様に活用できますね。
「8つの意識」のすべての基本は「お客さま第一」(顧客意識)ですが、お客さまからの理不尽な要求や、従業員の心身に苦痛を与える働き方につながる要求には、きっぱり断る姿勢が大前提なのは言うまでもありません。
2号続けてケース問題を取り上げました。ケース問題は、テキストで学んだことを仕事の場面でどのように用いるのか、学生は考え方や動き方を疑似的に知ることができるよい教材だと思います。めざす業界でのストーリーに内容を読みかえるなどひと工夫すると、より現実味のある学びとなるでしょう。